オリジナル短編集(ショート3篇) 【表紙デザイン】 イチトレイ 【収録作品】 「なつの死」 著:あや・扉絵:モク 季節外れの蝉の声が聞こえる。荒い自分の息と蝉たちの断末魔が耳障りで、わたしは両手で耳を塞いで必死に走った。早く、早く。一刻も早くいかなければ。こぼれ落ちた涙が風に踊らされ、唇を割って入ってきた。口内に広がる塩の味にわたしはぎゅっと唇を結ぶ。涙の味が不快だったからじゃない。 気を抜けば嗚咽が漏れだしそうだったからだ。耳を塞ぎ、唇を結び、目も本当は閉じてしまいたいけれど、今はそうするわけにはいかなかった。 一刻も早く、あの場所に行く必要があった。 ---------------------------------------------------------------- 「紫の華」 著:みー・扉絵:イチトレイ いつか、おばあちゃんが教えてくれた。神様は私たちの身近にいて、 気まぐれに私たちを見守ってくれたり、時には助けてくれたりしているって。 それに、神様は意外と人間臭くて、意外と神様してないそうだ。 つまり、人間に似ているところもあって― ---------------------------------------------------------------- 「ねやけ」 著:ふらいパン・扉絵:星飼 幕が上がり、舞台に立つ一人の女の子による独白で劇は始まった。 「私は見てしまったんです」 薄っすら闇の中に見える女の子は声を震わせて語る。 「移動教室で一階の家庭科室へ向かっている時に忘れ物に気付いた私は、 友達と別れて三階の教室へ戻りました。途中で、二階から三階へ昇る階段の踊り場にある窓から、見えたんです。 黒い影がはっきりと。気になった私は窓から外を覗いてみたんです。 怖いもの見たさでつい見てしまった。後になって、見なければよかったと何度も後悔した。 窓から覗いた私を、少女が下から見ていた」 ---------------------------------------------------------------- 【しおり】 絵:モク
売切れ
なつの華やけ / にんじんロケット
オリジナル短編集(ショート3篇)
【表紙デザイン】
イチトレイ
【収録作品】
「なつの死」 著:あや・扉絵:モク
季節外れの蝉の声が聞こえる。荒い自分の息と蝉たちの断末魔が耳障りで、わたしは両手で耳を塞いで必死に走った。早く、早く。一刻も早くいかなければ。こぼれ落ちた涙が風に踊らされ、唇を割って入ってきた。口内に広がる塩の味にわたしはぎゅっと唇を結ぶ。涙の味が不快だったからじゃない。
気を抜けば嗚咽が漏れだしそうだったからだ。耳を塞ぎ、唇を結び、目も本当は閉じてしまいたいけれど、今はそうするわけにはいかなかった。
一刻も早く、あの場所に行く必要があった。
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「紫の華」 著:みー・扉絵:イチトレイ
いつか、おばあちゃんが教えてくれた。神様は私たちの身近にいて、
気まぐれに私たちを見守ってくれたり、時には助けてくれたりしているって。
それに、神様は意外と人間臭くて、意外と神様してないそうだ。
つまり、人間に似ているところもあって―
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「ねやけ」 著:ふらいパン・扉絵:星飼
幕が上がり、舞台に立つ一人の女の子による独白で劇は始まった。
「私は見てしまったんです」
薄っすら闇の中に見える女の子は声を震わせて語る。
「移動教室で一階の家庭科室へ向かっている時に忘れ物に気付いた私は、
友達と別れて三階の教室へ戻りました。途中で、二階から三階へ昇る階段の踊り場にある窓から、見えたんです。
黒い影がはっきりと。気になった私は窓から外を覗いてみたんです。
怖いもの見たさでつい見てしまった。後になって、見なければよかったと何度も後悔した。
窓から覗いた私を、少女が下から見ていた」
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【しおり】
絵:モク
売切れ